【識別作用の滅によって】

 世間では、思い通りになることを幸せであると言い、思い通りにならないことを苦であると言う。しかしながら、本当の苦は静かでないことを言う。世人は、心が動揺するゆえに苦悩の中にあるからである。

 識別作用の滅によって、静けさが得られる。静かな人には、寄り来る苦悩もなく、生じる苦悩もない。利器が凶器に化すこともなく、食物が毒と化すこともない。一切の争いを超克し、三毒(貪嗔痴)を吐き出した〈道の人〉には、不吉なことがない。

 識別作用があるゆえに、身の毛もよだつこと(戦慄)がある。識別作用を滅したならば、身の毛もよだつことがなくなる。心は静まり、煩悩の火は消える。そこにはまったき安らぎがある。