【侮ってはならないもの】

この世には、小さくとも侮ってはならないものがある。

火は、小さくとも侮ってはならない。 毒を持つ生きものは小さくとも侮ってはならない。 そして、欲望はたとえそれが小さくとも決して侮ってはならないものである。

心が欲望を起こすと、汚いものでも綺麗に見える。 醜いものでも美しく感じる。 あやしげなものでも真っ当(正統)なものに思える。 間違ったやり方でも正しい方法であると認めてしまう。

しかしながら、心にわき起こる欲望を自ら制し、(正しく)導く聡明な人は、世間の何に触れても心が汚されることがない。 かれは、まことであるものをまことであると見、まことでないものをまことではないと見るのである。 かれは、異教にさそわれるということがない。 かれは、決して平らかでない道を平らかに歩み行き、ついに円かなやすらぎ(=ニルヴァーナ)に至るであろう。

人の聡明さは、他ならぬかれ自身の心構え一つによっている。 賢者は、自分ならざる何ものにも依拠せず、ただ自らに依拠して道を見いだす。 そこには、微かな疑惑さえも存在してはいない。 かれの明知が、決してかれの道の歩みを誤らせない。

こころある人は、自らの心にわき起こる侮るべからざるものを決して侮ることなく、悪を小さなうちに制し導き、とどめて、自らの歩むその道を自らによって浄めかし。