【礎(いしずえ)】

世間には、種々さまざまな風が吹く。 しかしながら、ここなる人が聡明であって、風評に心が揺るがないならば、それを最上の礎(いしずえ)と呼ぶ。

かれは、世間に飛び交う如何なる見解にもこだわることなく、自己を妄想する不当なる思惟の根本を断じて、順逆の念を離れ、勝敗を捨て、世に蔓延るいかなる実りにも執著せず、よく気をつけて、心の動揺を制し導いているのである。 かれにとって、安らぎはすでに近くにある。

世人は、世の中の風に吹かれて心が動揺し、多く塵をまき散らす。 賢者は、堅固な礎(いしずえ)に安立して、塵をまき散らすことがない。 塵をまき散らす者は、自らが荒れすさぶ風となって自分をも他人をも動揺させる。 塵をまき散らさない人は、荒ぶる風を起こすということがない。

最上の礎は、信によってもたらされる。 けだし、信は不動心にもとづき起こり、不動心は信ある人に宿るものであるからである。

こころある人は、風に巻かれてよろめき歩く生活を捨てて身軽になり、風よりも微細でつくられざるそれ(=真実)の現れを見極めて、決して風に手折れることの無いしなやかな心を、何よりも堅固な礎の上に体現せよ。 それをそのように為し得たとき、ひとを円かなやすらぎ(=ニルヴァーナ)へといざなう最上の礎はかれの身に完成されるのである。