【待つことに】

待っていて、待ちくたびれない人は実に忍耐強い人であると知られる。 待っていて、待ちきれず、待ちくたびれて、待つことを止めてしまう人には煩労があり、苦悩がつきまとい、事が過ぎ去ってなお後悔と憂いと悲しみとが心に残ってかれを苛む。

人をして円かな安穏(=ニルヴァーナ)に導き至らしめる<法の句>は、ただ待っていても聞くことはできないであろう。 しかしながら、それを聞こうとこころから待ち望む人に向けてこそこの稀有の言葉は発せられるのである。

それゆえに、真実を知ろうと願う人は、待つことに飽いてはならない。 それは、待ってましたとばかりにやって来ることはなく、待ちあぐねたゆえに訪れることも無いものであるが、因縁によってそれがまさに現れたとき、人が待ったなしの「そのこたえ」を自ら見いだし得たならば、かれは解脱するのである。 ゆえに、この覚りの因縁を<一大事因縁>と名づく。

こころある人は、たとえ自分が待つことになろうとも、他の人をそのために待たせてはならない。 他の人に、待ちわびた思いを与えてはならない。 悲哀の声を耳にすることを密かに望んではならぬ。 それらを心の根底において払拭して、人を悲しませることのないようにせよ。 それは、ただ待っていることよりも困難なことであるゆえに、もろもろの如来、ブッダ、世尊は、この最上の忍耐を為す健き人を、つねに称讃するのである。