【得ることもなく失うこともない】

人(衆生)は、心にまつわって苦悩し、心にまつわって憂いている。 しかし、その心がこの心を滅しようと欲し、心がこの心を滅して人は解脱する。 これこそがこの世で最も不可思議なことである。 そこに至れば苦悩がない。 そこに至れば憂いがない。 それは虚妄ならざる境地である。

ところで、人が覚りの境地に至ったとき、心を得ることもなければ、心を失うこともない。 かと言って、心が変わったのでもない。 心がすり替わったのでもない。 ただ、このとき人はすっかり解脱して仏となるのである。

それゆえに、こころある人は心を捨て去ってはならない。 心を得たり、心を失うことを望んではならぬ。 聖求と明知を携えた心によってこの心を滅し、その心を生じ、この円かなやすらぎ(=ニルヴァーナ)へと到達せよ。