【ふと耳にしたことで】

ふと耳にしたことで、かつて聞いた別のことを思いだし『そう言えば...』とそれを確認するならば、大いなる二つの理解を生む。 一つは今聞いたことを理解し、もう一つはかつて聞いたことを完全に理解するのである。

ふと耳にしたことで、かつて聞いた別のことを思いだし『そう言えば...』とそれをまたもや誤認するならば、二つの誤解を生む。 一つは今聞いたことを誤解し、もう一つはかつて聞いたことを完全に曲解するのである。

ふと耳にしたことで、かつて聞いた別のことを思いだし『そう言えば...』とそれを他の誰かに語るならば、大いなる二つの功徳を生む。 一つは他の人を安らぎに近づけ、もう一つは自分自身が円かなやすらぎ(=ニルヴァーナ)に近づくのである。

ふと耳にしたことで、かつて聞いた別のことを思いだし『そう言えば...』とそれを他の誰かに吹聴するならば、二つの悪行を働く。 一つは他の人を安らぎから遠ざけ、もう一つは自分自身の安らぎのよすがを根こそぎに掘り崩すのである。

ふと耳にしたことで、かつて聞いた別のことを思いだし『そう言えば...』とそれを実践するならば、大いなる二つの果報を生む。 一つは自分自身が法(ダルマ)を体現し、もう一つは他の多くの人々に法(ダルマ)の確かな実在を示現するのである。

ふと耳にしたことで、かつて聞いた別のことを思いだし『そう言えば...』と誘惑に負けてそれを実行するならば、二つの業果を生む。 一つは自分自身が悪魔の軍門に降り、もう一つは他の多くの人々を危険にさらすのである。

ふと耳にしたことで、かつて聞いた別のことを思いだし『そう言えば...』これこそが諸仏の智慧に違いないと思い至り、それがまさしくそのとおりであるならば、かれは直ちに解脱する。 人はこのようにしてニルヴァーナに到達する。

ふと耳にしたことで、かつて聞いた別のことを思いだし『そう言えば...』これこそが快楽の極致に違いないと思い至り、それが実際にもそのとおりであるならば、かれは相応しい悪処へと赴く。 人はこのようにして地獄に落ちて長い間苦しむ。

円かなやすらぎ(=ニルヴァーナ)に至るのも、地獄に落ちるのも各自のことがらである。 人は自ら望んでそれぞれの地に赴く。 それでも最後には安らぎに至るであろう。 人にはすべて真如が備わっているからである。