【「天網恢々疎にして失わず」】

「天網恢々疎にして失わず」とは老子の一節であるが、これは世の一面の事実を見事に言い当てている。 ただ人はこれによって解脱することはない。 人は、世の事実の認知ではなく、世の真実の真相を明らめることによって解脱するからである。 すなわち、法(ダルマ)は賢愚とは無関係に直に人を覚らせるものである。

善いことをすれば善いことが起こる。 これは一つの真実であるが、安らぎには役立たない。 善き人には善き人が集う。 人はこの真理によって不滅の安らぎへと至る。

どんなに素晴らしい言葉も、人を歓喜させるだけであるならば安らぎの役には立たない。 人を静けさに導き、安らぎに至らしめてこそ言葉は見事に語られたのである。

いとも聡明な人は、言葉の見かけの威力に惑わされることなく、真実を知ろうと熱望してついに究極の「その言葉」を聞く。 そうして因縁によって解脱して、究極のやすらぎ(=ニルヴァーナ)へと到達するのである。