【戒の二つの側面】

戒には二つの側面がある。 一つは、具足戒としての一面である。 もう一つは、サンガ(僧伽)の運営における一面である。

具足戒としての戒の意味は簡潔である。 「覚った人はそのように行為する」というのがそれであるからである。

その一方で、サンガ(僧伽)の運営においての戒の意味は深長である。 それはサンガ(僧伽)において修行者は敢えて持戒しなければならないという日々の修行実践に関係していることがらであるからである。

ところで、持戒することそれ自体は解脱とは直接関係がない。 修行者は、持戒することによってその結果として解脱するのではないからである。 しかし、修行者が破戒するようでは善知識と出会うことは期待できない。 それゆえに、修行者は持戒しなければならない。 修行者は持戒することによってサンガ(僧伽)に属していると認められ、このサンガ(僧伽)という浄らかな集いに縁して現れる法(ダルマ)に触れて自分だけでなく他の修行者達の覚りの機縁をも確からしめることが出来ると期待され得るからである。

このとき、修行者が決して忘れてはならないことがある。 それは、

 『戒は修行者の心を縛りつけるものではなく、修行者の心を解き放つために存在している』

ということである。 なんとなれば、修行者達は持戒によって覚りの境地に至る道の修行に誰に遠慮することなく邁進できるようになるからである。 そして、それを心から履行できるようになったとき、彼は完全な授戒を終えた修行者と呼ばれるのである。