【戯論】

いかに精緻・高邁な理論を駆使しても、それが自分をも他の人をもはぐらかしてしまうものに過ぎないならば、それではその理論は役には立たない。

その一方で、いかに単純・明快なことばであっても、それが自分をも他の人をも穏やかならしめ、心をやすらぐものであるならば、それはこの世における最上の妙薬となる。

世の毒をそのままに、あるいは組み合わせ、変質させ、いかに巧妙に用いてもそれらによって毒の根を断つことはできない。 それと同じく、戯論はどこまで行っても役には立たないものである。 その一方で、妙薬はそれをどんなに薄めても毒の根を断ち切り、人々を苦悩から救う力を持っている。 正しい理法が、極一部を耳にしただけでも人々のやすらぎに役立つようなものである。

患部を直接に手当てすることが、必ずしも最良の治療とはならない。 火傷のような深い傷は、見た目には浅くとも触れるだけで悪化させる恐れがあるからである。 真の治療とは、心身に負担をかけないように極わずかなものを与えるだけにとどめるものであって、それでいて患部をすみやかに完全に治癒せしめるものである。

聡明な人は、戯論を避けよ。 やすらぎに役立つものだけが論と呼ぶに相応しいものであると知って、自ら戯論を為してはならない。 多く塵をまき散らす者は、自分の道も、他の人の道をも汚す愚を犯すからである。