【見ればわかる】

私は、目撃したことがある。 それは、テレビの少しくだけた政治評論番組中のできごとであった。

議論・評論の的となっていたのは、ある党首の主張に嘘があるかどうかである。

もちろん、その党首と党を同じくする議員達は党首の主張に嘘は無いとその発言を擁護し、対立する別の党の議員達はその党首の主張の裏には嘘があるとまくし立てた。 また、同席していた政治評論家達はあいまいなことしか言えず、お茶を濁した発言に終始していた。 それぞれの人々はそれぞれの立場で互いに譲らず、次第に議論・評論は紛糺し、混迷の様相を呈してきた。 そのとき、その場にサブのコメンテーターとして呼ばれていたうら若い、今風の、どう見ても賢そうとは言えないような少しばかり翔んだ芸能人の女性がぽつりと、しかしきっぱりと言った。

 『嘘をついているかどうかなんて、顔を見れば分かりますよ。 あなた方は、分からないんですか。』

場は一瞬水を打ったように静かになったが、彼女の言葉を聞いた議員達や評論家達の顔は皆どこか晴れやかだった。 誰も口にこそ出さなかったが、彼女の言うとおりだと皆が言いたげに見えた。

精緻・高邁な理論など知らなくても、それについての深い経験など無くても、ものごとに真正面から向き合う人がこころから発することばには時としてそれらを超えたものがあると知られる。 聡明な人は、何よりも先ず素直なこころをもつ人であれ。 人は、それによってこそ世の最も深遠な真実を知ることができるからである。