【最悪を最善に転じる智慧】

存在するものを求めてこそ、それを得ることができる。 存在しないものを求めても、それを得る道理がない。 また、存在しないものを求めることによって、結果的に存在するものたるそれを得られるなどということもあり得ないことである。

『最悪を最善に転じる智慧』は、存在するものである。 それは、人を虚妄ならざるやすらぎ(=ニルヴァーナ)へと導く。 しかし、「最悪を最悪でなくする智恵」は存在しないものである。 それは、虚妄なるものであってニルヴァーナに役立たない。

真実を知っている覚者がそれについて語ったことばを聞いても、聞いたそのことばを曲解するならば、それでは求めるものを得るのは容易ではない。 また、凡夫が口にする世迷いごとを耳にして、それを真に受けるようでは、求めるものを得るのは遠いこととなる。

謙虚であることと、卑屈であることは違う。 卑屈さの裏には高慢が見え隠れしているが、謙虚さはつつしみに裏打ちされた美徳なのである。

もし人が、暗がりで落としたものを探すのに、そこには明かりがあるからと言って別の場所を探すならば、探し物が見つかる訳がない。 しかし、暗愚な者どもはそのような誤りをおかしながら気がつかないのである。

こころある人は、自らを卑しめ貶める愚かしい想いを離れ捨て去って、苦しいときにこそ高貴さを保つ人であれ。 そのような人は、ついには存在するものである究極の「それ」を我が身に体現すると期待され得るからである。