【他の人の言葉を理解する利益(りやく)】

何につけ、自分の心に浮かんだことがらをただ口にするのは比較的容易なことである。 しかしながら、他の人が言ったことを聞いてそれを正しく理解することは決して容易ではない。 なんとなれば、他の人の言葉を理解するためには、そのことにまつわる多くの情報や素養が必要になるからである。 それゆえに、何かを口にすることは聞いて理解する利益(りやく)の8分の1にも及ばないと言われるのである。

愚かな者どもは、ただ自分の言葉を口にするだけで他の人の言葉を聞く耳をもたない。 その一方で、賢者は、他の人の言葉を聞いてものごとの本質を知り明らめ、しかし自ら発する言葉はつつしんで場の混迷と紛糺とを回避するのである。 さらに、知者は自分とは直接は関係のない言葉をふと耳にして、そのそれぞれの言葉の真実の真相を知り究め、因縁によってこの世を超えた智を生じ、ついに解脱するのである。

世における真理の追究はつねにそのように為され、時と場所とやり方(メディア)とは関係なく為し遂げられて、それぞれの人々をそれぞれに円かなやすらぎ(=ニルヴァーナ)へと近づけ至らしめる。 聡明な人は、この事実に気づいて、言葉によって大いなる利益(りやく)を得る人となれ。