【怯えからの解放】

悪心を以て計らう者は、恐れおののく。 心に邪念を抱き、種々の思惑を生じてあれこれと奔走する者は、そこかしこにただならぬ気配を感じて怯える。

悪をとどめ、一切のはからいを離れた人は、おののかない。 邪念を排し、思惑を超えて直ぐなる行為を為す人の心は平安である。

意地悪な心が、諸悪の潜む巣窟である。 我執(我ありという思い)と愛執(我がものという思い)〔=執著〕が、心を穿ち蝕み、意地悪な心を増大せしめるもとのものである。 愛し好むものが、執著の機縁である。 欲望によって、愛し好むものが生じる。

それゆえに、世間の何に触れても欲望を起こすことのない人は、執著の根を断ち切って、悪をとどめている。 かれ(彼女)には、おそれるものがない。 かれ(彼女)は、何かに怯えるということがない。 かれ(彼女)は、固執して好き嫌うということがない。 かれ(彼女)は、感官の接触についてよく心を修めている。 かれ(彼女)は、平らかな心をすでに完成している。

もし人が、この安らかな心を得ようとするのであるならば、省みるべきである。 他ならぬ自らの行為について省察し、平らかな心の真実のありようについて観察・熟考せよ。 観察・熟考して知り得たことを、自らの道のあゆみの糧とせよ。 しかし、そうして得たことそのものには、こだわってはならない。 あるいはまた観を為し、平等心そのものについて自らの心に問うべきである。 正しい問いは、つねに正しい答えをもたらすからである。 人が、よくこれらのことを為すならば、覚り以前においても、けしかけられない心を得ることができるであろう。 そうして、聡明な人はついに究極のやすらぎ(=ニルヴァーナ)に至るのである。


[補足説明]
悪魔とその軍勢とは、次のものを指す。 1)欲望 2)嫌悪 3)飢渇 4)妄執 5)惰眠(怠惰) 6)恐怖 7)疑惑 8)傲慢

[補足説明(1)]
観察 → <二種の観察>:スッタニパータ

執著のもとのもの → <争闘>:スッタニパータ