【情(なさけ)】

情(なさけ)とは、ありのままと言うことである。 しかし、人は情によって解脱することはできない。 なぜならば、情にまつわる想いは解脱の道を閉ざしてしまう要因に他ならないからである。 けだし、ことに臨んでは次のように見る人だけが世間を出離することを得て、ついに解脱するのであるからである。

○ ありのままに見るのではなく、誤って見るのではなく、見ないのではなく、見て見ぬ振りをするのでもない

ありのままに見る人は有情の者である。 誤って見る人は非情の輩である。 見ない人は無情である。 見て見ぬ振りをする人は堕情に陥っている。 ただ、心構え正しき聡明なる人だけが、見るべきものを見、聞くべきことを聞き、知るべきことを識り、念と想いとを超越し、情にまつわることがらから心を解き放つことを得て、ついに一切から解脱するのである。

それゆえに、こころある人は、情にまつわって起こる一切世間の束縛の縄と網とを明知によって見極め、心によって心を解き放ち、心を超えて知られる其の心(=真如)の現れを他ならぬ自らの身に体現せよ。 それを為し遂げたとき、人は情(なさけ)の真実と真相を理解するのである。