【欲望を制し導く】

愛し好むものによって欲望は生起する。 それゆえに、愛し好むことのない人には、欲望は存在しない。 欲望のない人には、愛し好むものは存在しない。

実に人々は感覚的感受を喜び、また嫌う。 人々は、感官の接触によって生じる快と不快とに翻弄されている存在である。 人々は、さまざまな欲望の対象物を見ては愛し好みを生じ、また嫌悪を生じる。 かかる人々の心はつねに走り回って、安まるときがない。

しかしながら、ここなる人が、世間に浴しさまざまなものを見聞きしても、それらについての我執(我ありという思い)と愛執(我がものという思い)とを離れて、優劣・順逆の念を捨て去り、自己を妄想せず、一切の分別を超えた究極たる「それ」を知ろうと熱望して、その無上のそれの実在を知るならば、その無上のものを知ったことによって、あるいは「それ」を知りつつあることによって、それ以外のもの(=それよりも低く劣るもの)に対する執著を離れ得て、ついに人は欲望を捨て去るに至る。 かれはすでに心を安寧ならしめ、安らぎに住しているのである。

こころある人は、この最高のもの(=ニルヴァーナ)をこそ知ろうと欲して、最高ならざるもの(=世俗のもの)への執著を、たとえば銀の職工が汚れを除くように適宜に除き去って離れるべきである。

たとえ些細なことであろうとも、それをそのように為し得たならば、かれは見事に欲望を制し導いたのである。