【為し難きこと】

この世においてはすべからく、為し難きことを為す人には大いなる功徳が生じる。 これは不滅の真理である。

ところで、世間においてさまざまに語られる困難なことを為し遂げることが、為し難きことではない。 また、人が自ら放逸(好き勝手なこと)を為しつつそれに無頓着であることが、為し難きことなのでもない。 これらの両極端を離れて、人が自らの本性にもとづき、あり得べきことをあり得べきままに為すこと。 それこそが実に為し難きことなのである。

大それたことを志し、その実現に向けて血のにじむような努力をすることが、為し難きことなのではない。 容易に出来る筈のことを、本性にもとづき為すこと。 些細なことをおろそかにせず、放逸や怠惰に陥らないこと。 自らの目で確かに見いだした小さな禍の種を、それがまだ小さなうちに制し、生じたところから悪を完全にとどめること。 これこそが、実に為し難きことなのである。

もし人が、為し難きことを為し遂げたならば、得難き心の安定がもたらされる。 その反対に、ある人が何を為し遂げようとも、もしもそのことによって心の安定がもたらされず、行為があやしげで、継続される行為も果てしないものであるならば、それでは為し難きことを為し遂げたとはとても言えない。 かれは、為し難きことを僅かでさえも為し得たとも言えず、為し難きことを為しつつあるとさえも言えないのである。 そして、そのことは、かれがどのように弁明しようとも、他ならぬかれ自身が自らの行為の虚しいさまを見るに及んで、そのことを認めざるを得ないであろう。

人が、為し難きことを為そうと決心するその根底にあるものはひとえに真の心の安定を得ようとする願いである。 それゆえに、それがまさしくその通りに達成されたとき、為し難きことが完全に為し遂げられたのであると自他共に認知されるのである。 それは、いかなる認証も要しないことである。 何となれば、それは自明のこととなるからである。 このとき、彼には、すでにいかなる妄執も存在せず、揺らぐことのない心の安定統一が確立されている。 かれは、この世において何一つやり残したことが存在せず、世における為し難きことを実に容易に為し遂げている自分自身を発見することであろう。 そこに至って、かれ自身、まごうことなき覚りの境地に至ったのであると自ら識るのである。

こころある人は、為し難きことをまさしく為し遂げて、この無上の楽しみ(=ニルヴァーナ)を我がものとせよ。